愛着(アタッチメント)

「愛着とは、人もしくは動物が、ほかの特定の個体や集合体に対して形成する、情愛の絆のことをいう。」(以下省略)



「乳幼児期という人生の初期段階は,人間(他者)に対する基本的信頼感を形成する大事な時期であり,特定の者との間に「愛着」関係が発達することは大切である。
 しかし,この基本的信頼感は,乳幼児期に母親が常に子どもの側にいなければ形成されないというものではない。愛情をもって子育てする者の存在が必要なのであって,それは母親以外の者であることもあり得るし,母親を含む複数人であっても問題視すべきものではない。」



a.母親以外の人物がアタッチメント対象となりうるか?
 子どもは、母親以外の「数人の」(Boulby, 1969/1982)あるいは「少数の」(数井, 2005 b)養育者との間においても、アタッチメント関係を形成しうると考えられている。
b.母親以外に誰がアタッチメント対象となりうるか?
 典型的な人物として想定されるのは、母親以外の家族-父親や、養育に関与する機会の多い祖母・祖父など-、そして、保育所や施設で養育(保育・療育)を担当する保育者(数井, 2005 b;岩堂・松島, 2001)や施設職員である。
c.母親以外の人物がアタッチメント対象となりうる条件
 これらの人物がアタッチメント対象となりうる条件としては、①身体的・情緒的なケアをしていること、②子どもの生活の中における存在として持続性・一貫性があること、③子どもに対して情緒豊かに関わっていること、以上の3点があげられている(howes, 2008)。


「アタッチメント対象が母親1人である場合には、母親との分離や母親の養育の質の低下が、即、子どもの発達へのマイナスの影響を意味することになるのに対し、母親以外にもアタッチメント対象がいれば、子どもはその母親以外の者をも『安全基地』として利用することができるため、発達へのマイナスの影響がなくなるか、少なくとも限定的になるというわけである。このようにして、数人の養育者との間でアタッチメント関係を形成し、『アタッチメントのネットワーク』を持っていることが、子どもの発達にとって重要であると考えられている。



「Lamb(1976)は、両親に対する乳児の行動を観察し、その結果、ほとんどの乳児が母親と父親の両方に緊密なアタッチメントを形成することを報告した。」


「アタッチメントについて、乳児期におけるジェンダー差は事実上みられていない(Ainsworth, 1991)」



「心理学で圧倒的な影響力を持ったボウルビィの愛着理論は、子ども、特に幼児期の子にとって、親と強い愛着関係を形成することが、生涯にわたる基本的信頼感を持つようになる上で決定的に重要であり、何らかの形でこの愛着対象から切り離される場合に子どもは強い不安を感じ、それがトラウマ体験になることを明らかにした。そして、この愛着は、第一次養育者との間にまず形成されるが、父親との間にも、子の発達段階に応じて同じように形成される。ほとんどの健全な家庭では、子どもは両方の親に強い愛着を持つようになるのである。」



「子どもに対する母親の重要性を強調する愛着理論に対して、より広い文脈で子どもの発達を捉えようとするのがソーシャル・ネットワーク理論である。この理論では、子どもは母親を含む多様な人物から成るネットワークの中で、複数の愛着関係を同時に形成しながら育つと考える。」



従前、乳児はまず一人(主に母)との間に愛着を形成し、その後に他の者との間に愛着を形成するという見解(モノトロピーと呼ばれる。)が有力で、母子分離による悪影響が主張されていたが、近年の研究により、乳幼児であっても同時に複数の者と愛着を形成できること(数井, 遠藤, 2005)や、子に悪影響を与えるのは、愛着対象である母との分離そのものではなく、分離及び再会の条件によること(Schaffer, 1998)が明らかになっている。
引用・参考文献:小澤真嗣(2009)『家庭裁判所調査官による「子の福祉」に関する調査 -司法心理学の視点から-』家庭裁判所月報 第61巻11号 P29



安定した愛着関係を子どもが保持することは、乳児期のみならず、児童期・青年期に至るまで重要な意味を持ち、更にその人が恋愛し、結婚し、子育てをする際に次の世代への影響を与える可能性がある。その意味で、安定した愛着を可能にする要因又はそれを妨げるリスク要因を配慮し、その要因の生じる・生じないことへの働き掛けをすることが発達的介入の基本となる。
引用・参考文献:無藤隆(2013)『子どもの成長発達をめぐる諸問題(上)』家庭裁判所月報 第65巻3号 P15

  • 最終更新:2013-09-20 11:41:39

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